21世紀のモード「私たち」のライン

アニメーションの流れを大きく変えた作品をご紹介します。『君の名は。』の上映会や、『この世界の片隅に』の片渕須直監督をお招きしての上映会&トークイベント、また『21世紀のアニメーションがわかる本』著者の土居伸彰氏セレクトによる短編アニメーションの上映会等を実施します。

※各上映、イベントについての詳細は以下をご覧ください。
[イベント参加予約案内ページ]

この世界の片隅に(アニメーション版)

片渕 須直|KATABUCHI Sunao

こうの史代の同名マンガ(2008-09)を原作に、『マイマイ新子と千年の魔法』(09)で監督・脚本を務めた片渕須直が6年の歳月をかけて劇場アニメーション化した作品。2015年に開始したクラウドファンディングで3,000人以上のサポーターから制作資金の一部を集め完成した。2016年11月の公開以降、口コミやSNSで評判が広まり、2018年に入っても上映が続くロングラン作品となっている。主人公のすずは昭和19(1944)年、18歳で広島の呉に嫁ぎ、あらゆる物資が欠乏していくなかでも、一家の主婦として生活に工夫を凝らす。だが、戦争は進み、日本海軍の拠点だった呉は、幾度もの空襲に襲われる。本作には、大事に思っていた身近なものを次々と奪われながらも、前向きに日々の営みを続けるすずと、彼女を取り巻く人々が描き出される。文献や地図、現地調査、当時そこに住んでいた人へのヒアリングなどの綿密な考証により、現在は見ることができない広島の街並みが再現されている。史実とリンクしている箇所は、その日時の天候までも忠実に作品に反映させる徹底ぶりで、すずたちの生きる世界の実在感を補強している。

[劇場アニメーション]
第21回アニメーション部門大賞受賞作品

© Fumiyo Kouno/Futabasha/Konosekai no katasumini Project

君の名は。

新海 誠|SHINKAI Makoto

『秒速5センチメートル』(2007)や『言の葉の庭』(2013)など、意欲的な作品を数多くつくり出してきた作者による劇場アニメーション作品。山深い田舎町の女子高生・宮水三葉(みやみずみつは)は、ある日、自分が東京の男子高校生になる夢を見る。一方、東京で暮らす男子高校生・立花瀧(たちばなたき)も、山奥の町で自分が女子高生になっている夢を見る。繰り返される不思議な夢と抜け落ちた記憶や時間から、三葉と瀧は自分たちが夢のなかで入れ替わっていることに気づく。2人は戸惑いながらも現実を少しずつ受け止め、互いに残したメモを通し、ケンカをしながらも状況を乗り切っていく。千年に一度の彗星来訪という出来事を舞台に、少女と少年がお互いを知り、求めあう恋と奇跡の物語。世界の違う2人の隔たりとつながりから生まれる「距離」のドラマを、圧倒的な映像美とスケールで描き出している。作者による緻密なロケーション設定とそれを支える確かな風景描写に、世界観を持った音楽が加わることで、ファンタジックな物語をより強いリアリティとともに表現している。
1時間47分

[劇場アニメーション]
第20回アニメーション部門大賞受賞作品

© 2016 TOHO CO., LTD. / CoMix Wave Films Inc. / KADOKAWA CORPORATION / East Japan Marketing & Communications, Inc. / AMUSE INC. / voque ting co., ltd. / Lawson HMV Entertainment, Inc.

Ugly

Nikita DIAKUR

人間やほかの動物に日々虐げられている醜い野良猫アグリーは、神秘的なネイティブアメリカンの族長と心を通わす。インターネットで話題になったス トーリーを元にした3DCGアニメーション。登場するキャラクターは、プログラム上では糸で操られることによって動くマリオネットと同じ仕組みでつくられている。

[短編アニメーション|ドイツ]
第21回アニメーション部門審査委員会推薦作品

© Nikita Diakur

Rhizome

Boris LABBÉ

圧倒的な緻密さと極端な構図で展開される短編アニメーション作品。最小単位から無限に生成される世界は宇宙そのものであり、変容を続けるすべての要素が相関し、影響しあっている。タイトルは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』(1980)で複雑に展開されるRhizome(リゾーム)の概念からつけられている。本作では、そのリゾームの原則を網羅しながら、生物学的な意義と哲学観の考察が試みられている。作者によれば、スティーヴ・ライヒの音楽のコンセプトとエッシャーの数学的な作品、そしてボッシュやブリューゲルの絵画と、遺伝学のような生物の進化に関する理論やミクロとマクロの関係などの要素のあいだに生まれてくる何かをつくりたいと考えるなかで、このドゥルーズとガタリの概念が頭に浮かび創作につながったという。若い作者の興味と欲求を具現化した独創的な作品である。
11分25秒

[短編アニメーション|フランス]
第19回アニメーション部門大賞受賞作品

© Sacrebleu Productions

Oh Willy…

Emma De SWAEF / Marc James ROELS

『Oh Willy…』はセット内で人形を一コマごとに動かし撮影されたストップモーションムービーである。セットの大きさは室内の場面での2m角から10m角までさまざまである。小道具や登場人物はすべて羊毛や布地で制作された。ヌーディストとしてのルーツに立ち返ることを余儀なくされ、「ウィリー」は大いなる未開の世界へとぶざまに突き進んでいく。本作は、ダイアン・アーバスによるヌーディスト・コロニーの住民たちの写真にインスパイアされ制作された。それらの写真は不愉快なほど日常的でありながら挑発的で、なおかつ同じくらい詩的でもある。そのような詩情と過激で露骨なイメージとの緊迫したバランスを得るために、羊毛を素材として、ヌーディズムというテーマや「自然に生きるとはどういうことか」という問いを表現した。『Oh Willy…』はde SWAEFとROELSによる初のコラボレーションであり、現在同じ手法を用いて新たな短編アニメーションを制作中である。
(16分35秒/素材:デジタルシネマパッケージ(DCP))

[短編アニメーション|ベルギー]
第16回アニメーション部門新人賞受賞作品

© Emma de Swaef & Marc James Roels

やますき、やまざき

しし やまざき|Shishi YAMAZAKI

うれしい時、喜んでいる自分にまたうれしくなり、理由も忘れ、全身を巡る喜びは、悲しみや狂気までもを包括して花開く……。2013年の正月に向けて制作され、新年が幕開けるというだけで喜ばしいという「あっけらかんとしためでたさ」と、作者が日常的に感じている「理由を忘れるほどの大きな喜び」とを掛け合わせて表現した作品。
(2 min. 22 sec.)

[短編アニメーション]
第17回アニメーション部門審査委員会推薦作品

©2013 Shishi Yamazaki All Rights Reserved.

ホリデイ

ひらの りょう|HIRANO Ryo

まるで襖絵に描かれたような立派な松の木が佇む中、山々を繋ぐロープウェイが賑やかに行き交うも、どこかひなびた空気の漂う行楽地。そこに登場するのは、耳に姿を変えてしまう女の子、黄色い姿の裸の男、人間のように歩くイモリたち。共に行動を開始する3人は湖のほとりに設けられた野外ステージで演奏を始める。日本の妖怪を彷彿とさせる不思議な世界の住人たちを、じっとりとした湿度に満ちる唯一無二の世界観で描き出している。
(14分16秒)

[短編アニメーション]
第15回アニメーション部門審査委員会推薦作品

©ひらのりょう