2つの『この世界の片隅に』が描く「生」のライン

「生」の悲しみやきらめきを描いたマンガ版(原作)と、普通の日常生活の機微を描こうとしたアニメーション版。ふたつの『この世界の片隅に』を、原画(複製)など貴重な制作資料を通じて知ることができます。

※資料展示は火曜日のみお休みです。

この世界の片隅に(マンガ版)

こうの 史代|KOUNO Fumiyo

作者の代表作となった『夕凪の街 桜の国』の第2弾ともいうべき作品。戦中の広島県の軍都、呉を舞台にした家族ドラマ。広島の漁師町に育ち絵を描くことが好きな浦野すずが主人公。呉の高台の町に住み海軍で働く北條周作へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑いながらも一日一日を確かに健気に生きていく物語。

[ストーリーマンガ]
第13回マンガ部門優秀賞受賞作品

© こうの史代 / 双葉社

この世界の片隅に(アニメーション版)

片渕 須直|KATABUCHI Sunao

こうの史代の同名マンガ(2008-09)を原作に、『マイマイ新子と千年の魔法』(09)で監督・脚本を務めた片渕須直が6年の歳月をかけて劇場アニメーション化した作品。2015年に開始したクラウドファンディングで3,000人以上のサポーターから制作資金の一部を集め完成した。2016年11月の公開以降、口コミやSNSで評判が広まり、2018年に入っても上映が続くロングラン作品となっている。主人公のすずは昭和19(1944)年、18歳で広島の呉に嫁ぎ、あらゆる物資が欠乏していくなかでも、一家の主婦として生活に工夫を凝らす。だが、戦争は進み、日本海軍の拠点だった呉は、幾度もの空襲に襲われる。本作には、大事に思っていた身近なものを次々と奪われながらも、前向きに日々の営みを続けるすずと、彼女を取り巻く人々が描き出される。文献や地図、現地調査、当時そこに住んでいた人へのヒアリングなどの綿密な考証により、現在は見ることができない広島の街並みが再現されている。史実とリンクしている箇所は、その日時の天候までも忠実に作品に反映させる徹底ぶりで、すずたちの生きる世界の実在感を補強している。

[劇場アニメーション]
第21回アニメーション部門大賞受賞作品

© Fumiyo Kouno/Futabasha/Konosekai no katasumini Project