ねぇ、ママ

ねぇ、ママ

池辺 葵|IKEBE Aoi

祖母の残した洋裁店でその人だけの洋服を作り続ける『繕い裁つ人』 (2009-15)、26歳の独身女性が運命の物件を探す『プリンセスメゾン』(14-)など、これまでさまざまな女性の生き方を描いてきた作者の短編集。本作には巣立ってゆく息子を持つ母親の思いが空回りする「きらきらと雨」、修道院に暮らす2人の少女の物語「ザザetヤニク」、骨董屋の店主をしている独り身のおばあさんと少女の交流を描いた「夕焼けカーニバル」など、「母」をモチーフにした7つの物語が収録されている。本書には実際の家族としての母だけでなく、修道女、家政婦、旅先で出会った老姉妹、近所のおばあさん、ママになることに憧れる少女など、誰かの「母」的な存在となる人物が登場する。彼女たちはみな理想の母親像ではなく、愚直で、凡庸で、時に狡猾であるが、それでも優しく温かな愛を持った存在として描かれる。それぞれのストーリーは緩やかに繋がり、「母」の愛も人と人の繋がりのなかで周囲の人々に伝播してゆく。時折大きなコマで描かれる広々とした風景は、登場人物たちを包み込み、少ないセリフと大きな余白、柔らかな明暗のついた絵によって、読者には深い余韻を残す。

[単行本・雑誌 ]
第21回マンガ部門大賞受賞作品

© Aoi Ikebe (AKITASHOTEN) 2017